Vol.1 芸大時代から版画をはじめるにあたって

(2014年5月22日 星野先生アトリエにて)

対談

−「星野先生、今日はどうぞ宜しくお願い致します。」

星野「こちらこそどうぞ宜しくおねがいします。」

−「早速ですが、芸大ではほとんど版画をやっていらっしゃらないですよね。」

星野「そうなんですよ、油絵が好きだったので講習会で少しやっただけです。卒業して10年くらいはシロタ画廊での個展など油絵の作品ばかりでした。だからベテランの作家の中では版画をはじめたのは遅い方ですよ。」

芸大時代の環境

作品を見ながら

-「はじめた経緯というかきっかけはどういうことだったのでしょうか?」

星野「私は小磯教室にいたのですが、その時代の傾向で、学生時代は肉厚な質感の作品でした。
卒業後、色もマチエールも減らした抽象画で、象徴的にイメージ表現したいと思うようになり、最後の方は、完全に物質感のないモノクロで油絵を描いたのですが、それは、油絵よりもリトグラフの方が合う表現法だと感じたので、版画だけで制作することになったのです。」

−「星野先生の抽象画、油彩画…見たことないです。是非見せて下さい。」

星野「ごめんなさい、油彩画は倉庫にしまってありましてね。当時は大切に思っていたのですが、今見ると拙い作品だと思いますし、油彩はお見せできないの。」

−「残念です、回顧展などのいつかの機会を楽しみにしています。」

星野「今の版画はもうやり尽くされた感があって、何をやっても『誰かがやったあと』という感じはありますが当時、版画には『新しい表現』という印象があったのね。「版画」というジャンルそのものがフレッシュだったのかも知れませんね。だから新しいことに挑戦してみようという人の多くは版画をやったと思います。野田(哲也)さんとは同じ教室だったし、中林(忠良)さん、柳澤(紀子)さん、2つ下の学年の原(健)さんとか清塚(紀子)さん、本当にたくさんの人が版画をやって、そのまま今に至るのね。」

−「日本を代表する作家ばかりですね。皆、大学の時にすぐに版画をはじめたのでしょうか?」

星野「中林さんはわりと早かったかしらね。野田さんは抽象画を描いていたし、柳澤さんは今も両方やっているでしょう。みなそれぞれですね。私はそういうわけで大学の時はほとんどやっていません。卒業後10年程してからはじめたというわけです。」

版画をはじめた環境

−「はじめた頃の状況について聞かせて下さい。」

星野「大学では、講習を少し受けるだけで、結局初めて版画の個展を72年の時に開催でした。それまでは油絵ばかりだったから自信がなくて出したくなかったのだけど。主人の転勤で水島(岡山県)に行ってもまだ油絵を描いて、69年にリトグラフを本格的にはじめました。」

−「大学でやっていないのに、複雑なリトグラフがいきなりはじめて出来るものですか?」

星野「そうね、はじめは版画を始めたいということではなくて、作品を制作していくこと、描きたいと思う気持ちが強くあったのね。大学の時からも作品がまた変化していって、物質感のない、イメージの繰り返しのような要素のものに惹かれていくうちに、版画に思い至ったのね。」

アトリエ

−「なるほど」

星野「それで木版画や銅版画に比べて、描画することが中心のリトグラフに興味をもって始めるわけです。当時水島に一人だけ版画のプレス機を持っているアーティストの方がいてね、その方に最初ご指導頂いてね。でも彼もリトグラフの専門家ではなく、そんなに詳しく知らないから、手探りだった。学校を出てから10年近く経ってから始めるわけだし、当時のメモだけじゃ全然わからなかったのよ。大学の研究室にあった溶剤は、実は最初から調合されていたのだとその時になって気がついたり、ある溶剤は何で溶かすべきかなど、技術面で分からない事も沢山ありました。その後、大阪あたりで地図を作っていたという職人の方に技術的なことは沢山教わった。学校ではなかなか習えないことを職人さんから直接教われたのはラッキーでしたね。」

−「教科書もインターネットもないから、技法から手探りだったというわけですね。それで、最初の版画の発表は?」

星野「それで主人の転勤に伴ってまた水島を離れる事になったので、それまで応援して下さった周りの方が最後に倉敷の天満屋画廊でリトグラフの展示をやろうということになり、開くことが出来ました。まだ当時リトグラフという技法は勿論、女性がこういう作品を発表するというのが珍しかったというのも手伝ったのでしょうけど随分沢山買って下さって嬉しかったです。」

−「今後はもう油絵の制作というのはしない?」

星野「今はもうとてもやる気しないわね。今興味があるのはデジタルプリント。2000年からはじめているんだけど、はじめてやったのはボルヘス会の生誕100年の会報誌の表紙。デジタルで原稿を作ると版画とは違う味が出るという話をきいてね、面白そうだからやってみたのよ。新しい事に挑戦するのが好きなのかもしれませんね。」