Vol.3 若い作家へ リトグラフに対する情熱

今の若い人の版画を見て

−「今の若い人の版画を見ていかがですか?」

星野「エディションがとても少ないのに驚きますね。版画協会展などの団体展などで見ても5,6枚というのが今は本当にたくさんあるのね。昔ね、中林さんに聞いたことがあるのだけど、若いころカッコイイとおもって「7」なんてエディションつけたけど、あとから刷り増しができなくて困った!なんていう話を聞いたことがあります。凹版の作品ですからエディションがあれば、あとでその都度刷れば良いわけです。木版画にしても同じですね。折角「版」を作っているのだからもう少しエディションに余裕をもたせたほうが良いと思いますね。」

−「数を増やしてもなかなか売れないからという事情があると聞いています。」

作品を見て

星野「勿論すぐには難しいでしょうが、これから作家としてやっていくと思っているのであれば、若い人には何十年と時間があるわけです。だから一度に刷らないでも、エディションは増やしておいた方が良いではないかしら。それだけの時間を掛けて作っているわけですから。」

−「同感です。」

星野「今はインターネットなどで情報の伝達が早いから、国内外の展覧会などの誘いも多いでしょう。そういうチャンスを逃さないためにもある程度ストックを持って対応するというのは、版画をやる人にとって必要かもしれませんね。 」

−「そういえば、先生から来月フィレンツェで展覧会があるとお知らせ頂きました。」星野「そうなのよ、今回の展覧会もあちらのギャラリーのオーナーがインターネットで作品を見て下さったのがきっかけですよ。」

−「なるほど、インターネット、ボーダレス時代だからこそのご縁ですね。私は普段上海を中心に中国での展示のコーディネートの仕事をしているので、エディションが少ない場合、展覧会終わったらすぐに返却して欲しいという若手作家さんがいます。こちらでも1回だけでなく2,3回と展示したいので困る事があります。正直送料のこともあるので…エディションはもう少し多めに!は若い作家に是非伝えたい(笑)」

母親と制作の両立

星野美智子

−「当時、育児と制作の両立というのはどういう環境、感じだったのでしょうか?今、若い作家はそれこそ制作と生活の諸問題とのバランスを取るのに苦労しているように感じています。」

星野「私は学生時代から自分の家にアトリエを持っていましたし、結婚して子供が出来てからは、母がいないので家事は一人でしっかりやっていましたが、気持ちの上では制作が最優先でした。これは今も同じでしょうね。子育ての環境という意味では、今の方が楽なんじゃないかしら?生活が便利になり、子供が生まれても保育園に預けて仕事を続けるのが普通になっていますね。当時は保育園に預けてなんて出来なかったし、離乳食も全部手作りしかなかったから。そもそも今、皆さんイクメンでいらっしゃるじゃないの?当時の男性は封建的で育児に協力的ではありませんでしたよ。」

−「イクメンというかイクメンにならざるを得ないというか…(笑)」

星野「子供がいる昼間だとなかなか作業はできないから、夜寝かしつけてから作業しましたね。夜中の二時頃起きて風呂場でジンク版をザァザァと水洗いしたり。」

−「子育ての環境としてリトグラフをはじめてから何か変わりましたか?」

星野「私、元々はそんなに整理整頓してキレイにするタイプではなかったんですよ。油絵を描いている時は特にそうでした。でも版画というのは作業場がキレイじゃないと出来ないのね。だからリトグラフをはじめてからどんどん片付け魔みたいになっちゃって(笑)子供を育てる環境という意味では勿論そのほうが良かったのである意味版画の恩恵かもしれません。」

−「版画制作はかなり費用もかかりますよね。」

星野「そうですね、プレス機やマップケース、沢山設備は必要ですが、それは作品でまかないました。作品が売れた画料で何年も掛けて、チョットずつ揃えていったりして。水島の時はプレス機も刷る時借りに行ったし、当時は版画工房なんていうのも近くにはありませんでしたから。不便でしたが自分のものを揃えていくというのは楽しかったですよ。」

リトグラフに対する情熱はつづく

リトグラフについて

−「お話を伺っていて、リトグラフに対してものすごい情熱ですね」

星野「リトグラフというか描く事が好きなんですね。でも今は得にリトグラフに対して知らないことがあるのが嫌なんですよ。それはリトグラフというものを手探り状態で探しだす時にも、ウォータレスを勉強する時にも大きな原動力となったと思います。もう40年以上やっているのでそういう気持ちになりますよね。」

−「最後に制作を長く続ける秘訣は?」

星野「描きたいと思いつづける事とか、色々あると思いますけども一番は健康です。私は割合身体が丈夫なので今も元気に制作させてもらっていますよ。それがないと、何も出来ませんものね。」

−「本日はありがとうございました。」