柳澤紀子

柳澤紀子/Noriko Yanagisawa

アーティスト/前武蔵野美術大学教授。浜松市出身・掛川在住。銅版画を中心に、ミクストメディア、パブリックアートなどを制作。国内外で幅広く活動している。浜松市美術館の2013年に開催された「柳澤紀子展 転生の渚」のカタログに清水裕子さんが丁寧にまとめ書き起こした柳澤先生の発言やエッセイです。

静岡県浜松市生まれ

1963年 東京芸術大学美術学部油画科油絵専攻卒業

1965年 東京芸術大学大学院油画研究科油絵専攻修了

1971-75年 ニューヨーク滞在 プリントメーキングワークショップで制作

1992年 文化庁派遣芸術家在外研修員としてロンドン滞在

2003-10年 武蔵野美術大学教授(油絵学科)

作品

  • 原風景への旅1

    原風景への旅1

  • Garden at the Waterfront IX

    Garden at the Waterfront IX

  • Test Zone  II

    Test Zone II

  • 水邊の庭'00

    水邊の庭'00

  • 残夢

    残夢

  • Fragment IV

    Fragment IV

  • 水邊の庭

    水邊の庭

インタビュー(2014年掛川にて)

インタビュー
掛川市役所にて

水邊の庭/すいへんのにわ 2000
(掛川市役所にて撮影)
寄贈者 ゼロの会/平成13年5月31日

「水邊の庭」は、能のルーツでもある
西浦田楽(浜松市・水窪)からインスピレーションを受けて制作。
樹木と人体が合体した作品には、日本人の心に古くから宿っている
アニミズム的な精神が込められている。

アトリエにて

柳澤先生に会いに掛川へ

−「本日はどうぞよろしくお願いします。」

柳澤「遠いところからわざわざ来てくれてありがとう。」

−先生の制作のスタイルに非常に興味をもっております。先生はタブローや版画、モザイクなど様々な活動があります。日本は油絵は画家が、版画は版画家がやる事が多いので是非そのあたりのことをお聞かせ下さい。」

柳澤「私は藝大の時は油絵学科で林(武)教室だったんですけども、フランスから帰国されたばかりの駒井先生にも銅版画を習う機会があったのね。もともと描くのが好きで、駒井先生から教わった銅版画の繊細な表現もまた好きで両方やっているだけなのよ。」

−「先生は版画作品は刷り師に作品を刷ってもらっているとうかがったのですが、「自画自刻自摺」の日本では珍しいのではないでしょうか?」

「そうね、バブルの頃とは違って今の日本では珍しいかも知れませんね。でも浮世絵の時は皆そうやっていたわけですから別段特別という感じはしていません。」

−「なるほど~実際にはどういう工程なんですか?仕事の役割配分というか。」

作品

柳澤「そうですね、まず刷り師にお願いするということはアーティストのコラボレーションだと思っています。ジム・ダインも同じような事をいっています。私の作品の場合、ここ二十数年間の刷りは殆ど薬師寺章雄さんにお願いしています。まず最初に私がサンプルを刷って薬師寺さんに細かく色々お願いするわけです。ここの具合をもっとこうして欲しい、ああして欲しいと。それで薬師寺さんが刷って下さるんだけど、当然のことなのですが私のイメージと多少ズレがあるわけです。それを二人で更にああだ、こうだ言い合って煮詰めていく感じです。本当のことをいうとほぼ喧嘩状態よ、だって二人のアーティストが作品について本気で言い合ってるんですもの。そうやって私の版画作品は生まれます。」

−「刷り師とのコラボレーションメリットというのは?」

柳澤「やっぱり刷りが格段に上手いから作品のグレードが上がりますね。あと私はエディションを自分である程度持っていたいのでそういう点で非常に助かります。沢山の展覧会のお話を頂いても自分ひとりで刷っていくのだったらとても出来ませんもの。」

掛川北病院・モザイク作品

−「先ほど掛川北病院でモザイクを拝見しましたがあれもまたコラボレーションですか?」

柳澤「モザイクはずっと藝大で教授の工藤晴也さんとのコラボレーションです。日本であれだけのモザイクを作れる人というのはなかなかいないのですよ。(私の家の入り口のタイルもまた工藤さんに作って頂いたんですよ。)」

−「先生にとってコラボレーションというのはどういうことなんですか?」

柳澤「本の翻訳の作業に似ていると思います。作家が書いたものを別の言語にするのと同じようにアーティストが制作した版画を刷り師がよりグレードあげて刷っていくということです。私の制作活動にとっては無くてはならない存在ですね。」

−「なるほど。自身の作品のクォリティをあげるために摺師やモザイク作家、詩人など他の作家と協力しながら広がっていく…だから先生は「版画家」ではなくて「アーティスト」なのですね。今日はいろいろ楽しいお話をお聞かせ頂きありがとうございました。」

柳澤「こちらこそありがとう。」

アトリエ風景

アトリエ
道具

アトリエ訪問後記

先生の活動の範囲は広く版画だけでなくタブローやモザイクなど実に多肢に渡っている。世界のあちこちの国へ訪問されて活動されているので話題も幅広く、展開も早く…というのがうまくまとめられなかった言い訳だ。幸い浜松市美術館のカタログがあり、そこに清水裕子さんが丁寧にまとめた、柳澤先生の発言やエッセイがある。それを是非多くの方にご覧いただきたい。

本当にたくさんの事をお話聞かせていただいているなかで「それは偏見よ!」とお叱りをうけたのが一番心に残った。それはこんな質問だった。

NG質問
−「母親をやりながら版画制作は大変でしたか?」

「それは勿論大変だわよ。子供は「待った!」が効かないからね。でもそういう質問をする自体が偏見ね(笑)男性だったら働いているからとか、こどもがいるからとかいうのという質問をしないでしょう?作品の良し悪しと母であり子育てをしながら苦労したとか、そういうのは一切関係ありません。作品が良ければそれで全部、それでいいの。それがアーティストなのだと私は思います。」

−「す、すみません…反省します。」

柳澤「日本は男性的な社会だからそういう考えを思ってしまうのね。でもそう思うこと自体が性差別的なのね。」

−「以後気をつけるよう肝に銘じます。」

若手作家、特に女性が制作活動していく時、出産は非常に大きな問題だ。いやこれは制作に限ったことではなく日本全体の問題だと思っていたので女性が制作を続けていく上で子育てをしながら、母親でありながら続けていくことはどういう点で大変だったのかと聞いてしまったのだが、確かに先生の仰る通りです。楽しいお話も厳しいご指摘も大変勉強になりました。どうもありがとうございました。