インタビュー/版画の海へ漕ぎ出した自家製プレス機(後編)

ビュラン

[自分の道具は自分で工夫]

−「先生はオリジナルの道具をお持ちですか?」

中林「オリジナルの道具というと自分で作ったということですか?」

−「ベテランの先生方にお話を伺うと皆工夫されています。画材屋で買ってきた道具をそのまま使うという感じではなくて。」

中林「昔の話をするのは年寄り臭いけど、昔は本当に何もなかったからね。自分で作ることが多かった。今は逆になんでも市販されているから、自分で考えて自分の道具を作る機会が失われてしまった。だから藝大にいた頃は、学生にビュランの柄を作らせていました。自分の手の形にフィットするものを作って使うのが一番いいのです。ぼくのはこれです。」

−「市販のものより刃先が短いですね。」

中林「中に埋め込んでいる部分が多いのです。短い方が刃先をコントロールしやすいのです。」

−「その他にも先生が考案したオリジナル道具ってありますか?」

平行線を引く道具

中林「ありますよ、ぼく以外にはなかなか必要とする人はいないだろうけど」といって笑いながら見せてくれた謎の道具。

−「これはどうやって使うのですか?」

中林「このバカボン親父の鼻毛のような道具は、ワイヤブラシのブラシ部分をはずして、くくったもので、使い道は、一度に数本の、それも強弱のある線を引くためのもの。つまり、一本一本に意志が入らないような、そして、強弱のある平行線を引くためのものです。」

−「なるほど、非常にユニークな道具ですね。思い通りに線を引けないための道具。…たしかに画材店では売れなさそうです。」

バット

【ちょっとした知恵】

中林「道具というほどの話ではないのですが、これをなんで水の中に入れるのか分かりますか?」

−「いえ、なんですか、この金属は?」

中林「雁皮摺りの時に、バットにつけた版を直ぐに取り出すためのものです。別にスプーンでもなんでも代用はできます。1枚の版にエディション数の数だけ行われる作業、それに作品数をかければ膨大な回数この作業を行うわけで、こういうちょっと不便をちょっとだけ解消するアイデア。」

−「なるほど、先生のその流れるような制作の過程の中に沢山の知恵と経験が詰まっているんですね。」

アルミペーパー

[野田先生は買わなかったアルミペーパー]

−「野田哲也先生とのエピソードなんかを聞かせて下さい。」

中林「ははは、いいですよ。お、丁度、ここにアルミシートがありますね。」

−「これアルミなんですか?」

中林「そうですね、アルミの粉末を表面に蒸着したアルミ粉末のシートです。 ある版画好きな方がアルミは防虫効果、たとえばカビ予防に効果が高いということで開発した。マップケースの棚の上下に敷いて作品を保護するのに適していると。」

−「へぇ、初耳です。」

中林「しかし生産っていってもねえ、小さな町工場で、少量生産した実験的なものだった。1枚2000円位したかなあ、結構高いのです。ぼくはこういうのを面白がって結構買ってみる方なんですよ。しかし野田さんは買わなかった。何十年か経ってから効果がわかると言われても、困るって。」

−「ははは、なるほど。」

中林「しかし、今のところ野田さんの作品ケースが虫喰いでひどい目にあったという話は聞かないし、ぼくのマップケースの中の作品もおかげ様で無事です。どうやら効果を証明するのはまだ先になりそうです。ただ残念ながら、その結果が出る前にその工場の方が先に潰れてしまいました。」

中林&竹内

[最後におねだり]

−「なかなか今若い作家が中林先生から直接お話しを聞いたり、指導を受けたりすることは出来ません。」

中林「あはは、そうだね。ぼくも歳だからね。」

−「それで、是非先生に若手に向けたメッセージというか、私達のサイトにご寄稿頂ければと思うのですかお願いできませんでしょうか?」

中林「そうだねえ、いいですよ。ただ沢山書かなくちゃいけないものがあるから、時間かかりますよ?」

−「はい、その列に並ばせて下さい。」

中林「なるべく早く書くようにしましょう。」

−「私達はこれから様々な作家にインタビューして記事書かせて頂きたいと思っています。作品についての分析などは専門家に任せるとして、作家の考えている事や制作環境などお話きかせてもらえたらと思っております。」

中林「いいですね。作家同士でもなかなかアトリエ訪問はないので面白そうです。楽しみにしてますよ。」

−「本日はどうもありがとうございました。」