坪内好子

坪内好子/Yoshiko Tsubouchi

鎌倉在住の銅版画家。
女子美術大学、スロヴァキアのブラティスラヴァ美術アカデミーで版画を学び、活躍する銅版画作家。銅版画という西洋の技法、日本的な金箔をつかい、南蛮を彷彿させる帆船や地図、地球儀といった絢爛たるモチーフが坪内の世界に見るものを旅立たせる。

1966年 東京生まれ

1989年 女子美術大学芸術学部絵画科版画専攻卒業

2005〜2007年 ブラチスラヴァ(スロヴァキア)美術アカデミーにてデュシャン・カーライに師事

現在 神奈川県在住

新作1 新作2

(新作 左右共)制作年:2014年
455mm × 600mm
技法:エッチング、アクアチント、金箔、手彩色
ED:95

版画作品

  • Eppure si muove!

    Eppure si muove!
    2004年

  • 王国への鍵 その3

    王国への鍵 その3
    1994年

  • 王国への鍵 −Bratisrava-

    王国への鍵 −Bratisrava-
    2007年

  • arbre de Noël

    arbre de Noël
    1994年

  • 王国への鍵

    王国への鍵
    1989年

  • mener qu en bateau VII

    mener qu en bateau VII
    1996年

  • mener qu en bateau IIII

    mener qu en bateau IIII
    1993年

  • VENTO BOM AGUA NA VELA II

    VENTO BOM AGUA NA VELA II
    2004年

  • mener qu en bateau V

    mener qu en bateau V
    1994年

  • mener qu en bateau IX

    mener qu en bateau IX
    1997年

  • VENTO BOM AGUA NA VELA IIII

    VENTO BOM AGUA NA VELA IIII
    2004年

  • Imperium Japonensium Mappis

    Imperium Japonensium Mappis
    1995年

  • UZIHCHIAKES

    UZIHCHIAKES
    2007年

インタビュー(2014年7月8日 レストランにて)

インタビュー
La PEKNIKOVA

−「素敵なお店ですね~」

坪内「ありがとうございます。主人がレストランをしておりまして、奥が私のアトリエとなっています。」

La PEKNIKOVA(ビストロ ラ・ペクニコヴァ)

−「鎌倉という立地といい、ご主人が元大使館の料理人…なんか漫画みたいな設定すね!とてもカッコイイです!」

坪内「そうですか…ありがとうございます(笑)」

−「今日本の版画家の制作環境とか実際にどういう感じで活動されているのかということを知りたくてインタビューさせて頂いております。こちらが今までインタビューさせていただいている作家のインタビューページです。」

坪内「うわぁ、偉大な先輩方の中で恐縮です。」

テラスにて

−「坪内さんの活動の仕方にとても興味があります。学校の先生はされていなくて活動をするというのは、今の日本でとても難しいのではないかと感じています。団体などには所属されているのでしょうか?」

坪内「はじめは所属していたのですが、出品せずサボっているうちについ疎遠になってしまいました。荒野を彷徨う一匹狼というところでしょうか(笑)CWAJ現代版画展は選考がありますが近年 ずっと出展させて頂いています。その他、年5,6回、多い時は10回以上国内外で個展、グループ展を行っています。」

−「作家のウェブサイト作られてないですよね。」

坪内「ウェブサイトはないです。」

−「それではどのように広まっていくというか、作品を見てもらっているのでしょうか?」

坪内「多くはありませんが本の装丁に採用していただいたり、画廊で目に留めて頂いたり、作品を幾つも集めてくださる奇特なコレクターさんがいらしたり…。でも作品をご覧いただくのは断然個展やグループ展が主だと思います。やはり実物は質感が全然ちがいますから。また、作品を楽しみにしてくださっている方々と直にお話する機会があると制作意欲もグッと上がり、それがモチベーションにも繋がります。作家は孤独な仕事なのです。」

−「おお、なるほど。なんだかアスリートのようですね。それ以外はどのように活動をなさっているのでしょうか?」

坪内「画廊からの委託や注文で結構いっぱいいっぱいです。次、次、と締め切りに追われていていつもギリギリです(涙)。レストランもあって制作に当てられる時間も限られていますので…。のんびりしていそうですがこう見えて結構忙しくしているんです。(笑)」

−「オーダーメイドというかエディション全部作ってくださいという感じで注文あったりもするのですか?」

坪内「ちょうど今年から来年にかけて制作中です。ある企業から画廊経由で依頼がありました。オリジナルの版画作品を2種、100枚ずつです。毎月10枚づつ納品しています。 手作りなので一度に沢山制作することは出来ません。他の仕事と並行しながら10枚仕上げてゆくのがやっとです。時々このようなオファーをいただくのですが納品までの時間がタイト過ぎてなかなかお請けできないのが実情です。でもこう言う仕事は版画作品にピッタリですよね。もっと浸透してニーズが広がるといいですね。」

−「作家にオリジナルの作品を注文する企業…すごく成熟されている企業のように感じました。オリジナル版画の注文主はその版画をどのようにするのでしょうか?」

坪内「お取引先への贈答であったり、退職される方への記念の品であったり様々な用途があるそうです。送られる先によって絵柄を使い分けていらっしゃるそうですよ。」

作品解説

−「留学についてお聞かせ下さい。留学はスロバキアにされていたのですよね。どうしてスロバキアだったのでしょうか?」

坪内「スロバキアに留学したい!というよりこの作家に師事したいという目的が先にありました。DUŠAN KÁLLAY(ドゥシャン・カーライ)という アーティストです。最初はカーライ先生に 会いに行くだけのつもりがいろいろあって…。作品、資料、レポートを抱えてインタビューを受けたらその後トントン拍子で学校(ブラティスラヴァ美術アカデミー)に入学決まって…」

−「将に『縁』ですね!どのようなアーティストなのでしょうか?カーライ先生とは?」

坪内「その当時は夢中でした。ベクトルがもうそちらに傾いていたのでしょうね。カーライ先生にお会いした時は嬉しくて嬉しくて。ドゥシャン・カーライは私にとってアイドルですから。カーライ先生の眼はすごくきれいな ブルーなんですよ。最近は版画よりも絵本などを中心に制作されています。繊細な描写で、複雑に重なる色彩とマッチして幻想的な作品です。日本でもいくつか絵本が紹介されています。でも私はカーライ先生の陰のあるダークでそれでいてユーモラスな版画作品の方が好きなんですけど(笑)。」

−「坪内さんのエディションについての考え方について聞かせて下さい。私が上海や杭州など中国各地で版画展の企画に携わっていて気がついたのは、若手作家の方がエディションが圧倒的に少ないこと。最近では『1/5』とか『1/3』とか見かけます。」

坪内「かつてあるギャラリストの方に「作らなくてもエディションはとっておいたほうがいいよ。と言われたことがあります。」

坪内「作家活動を始めてからある程度のエディションの数字は必要だと感じるようになりました。それは画廊からの要望でもありました。なぜなら私は新作を次々と発表できるタイプの作家ではありません。しかし私の版は100枚位は十分に刷る事ができます。一つの作品を丁寧に作り、時間をかけて刷り増しをしながらゆっくり向き合って行きたいと考えています。またそれは次の新作を手がけるための時間にもなりました。この時間をひねりだすのがとても大変です。わたしの場合少ないエディションで新作をどんどん発表していたらすぐにアイデアが枯渇してしまうでしょう。」

−「なるほど、それだけ一枚の作品に想いと手間を込めて作っていらっしゃるのですね。確かに作品すごい凝ってますよね。お話を聞いていて、確かに別に一度に全部刷りきる必要ないわけだからもっと一枚の版を追求しても良いかもしれませんね。」

制作過程

坪内「はい。それに版と長い時間をかけて対峙しながら刷っていると自分との一体感が深まってくる気がします。同時に作品を客観的に見る機会も増えます。版を作っている時とはまた違う作品と自分との関係性が生まれてくるのです。こういう感覚は版画作品でエディションを制作するようになって初めて感じるようになりました。ですから、ほかの作家さんと比べるとエディションは比較的大きいかもしれませんがそれは言い換えると作品と向き合える大切な時間でもあるのです。」

−「エディションが少なくて後悔したよ〜、というお話はベテラン作家が多く口にされていました。坪内さんはエディションが〜95というのは多いと感じますか?またエディションが多くて後悔したことはありますか?」

坪内「エディションは個々の作家が決める数字ですので、あまり他と比較することはありませんでした。版の状態や作品の需要、要望、その他の成り行きで決まっていったので…。ただ何百枚となると抵抗があります。版も保てるかわかりませんし、私の場合は今くらいでちょうど良いです。後悔…?エディションを減らせばよかったということですか?ないですよ。強いて言えばエディションナンバーの管理が少々複雑なことくらいですね。」

金箔

−「作品には金箔が使用されていますが、この世界観は南蛮風といってよいのでしょうか、そういったものを意識して作られているのでしょうか?これは留学前からこのスタイルと伺っているのでとても不思議です。」

坪内「そうですね、留学前からこのスタイルです。時間を重ねて出来上がってきたような飴色の温かみのある存在感をなんとか 表現してみたいと考えています。そんな中で金箔は 画面の質感を表現する大切な要素の一つです。私の中にある南蛮風といえば川上澄生です。作品は知っていましたが1996年 東京ステーションギャラリーで初めて本物の作品と出会いとてもとても感銘を受けました。この時 川上澄生のガラス絵を見たことがきっかけでわたしもガラス絵を始めました。作品とレンガの壁面とのマッチングが素晴らしく感動的だったのも印象に深く残っています。わたしも、いつかこういう展覧会ができるような作家になりたいと 思いました。東京駅の復元工事でギャラリーは新しくなりましたがレンガの壁は大切に残されていますね。いつかやらせてくれないかしら。(笑)」

−「この小さなウェブサイトからのラブコールがいつか届くといいですね。それで坪内さんのスタイルを貫いていったら今のスタイルに行き着いたと。金箔は技術的にどういうところが難しいですか?」

坪内「たまたま私は作品にうまく取り入れる事が出来ましたが金箔は強烈な主張がありますからむやみに使うと作品を壊してしまいます。そして手間と時間とコストもなかなかシビレます。」

−「手間と時間とコスト?」

坪内「ええ、金箔は著しい経年変化も少ないですから素材として大変素晴らしいですよね。また先にもお話しましたが画面の質感を獲得するのに重要な存在です。しかしそれにはまず金箔を押すための下地を刷り、箔押しをして一週間程度乾かし、その後余分な箔を画面から払い、 次に版を重ねてゆくための準備を整えます。そしてさらに 版を重ねて刷って行くのです。しかし、まだまだ仕事は道半ば。版が出来上がっていても刷り増しに手間と時間はたっぷり必要です。金箔も 年間数千枚使うので結構な量を消費します。」

版画

−「ええっ、そうなんですか!金箔の下にもしっかりとした基礎工事をしてあるのですね。たとえば新作のVENTO BOM AGUA NA VELA VII だとどのくらいの枚数の箔押しがされているのですか?」

坪内「だいたい20枚前後です。」

−「うわぁ、それは大変な作業ですね。」

坪内「ええ…。だから集中力が持たないので、一度に刷る数は5,6枚程度にしています。」集中力が切れると悲惨な帰結が待ち構えているので無理は禁物です。」

−「なるほど、金箔を扱う作家ならではの悩みですね(笑)。色々興味深いお話ありがとうございました。」

アトリエ風景

アトリエ全景
アトリエ風景

アトリエ訪問後記

坪内さんと初めてお会いしたのは日本橋三越での個展会場、その時にインタビューさせて下さいとお願いしたのでした。日本で大学の先生ではなくて版画家で、自分の版画作品を売ってやっていけている人は、少なく、更にその人にその秘訣を教えて欲しいというのだから、なかなか我ながら厚かましいお願いでした。

エディションを持っておくということは、品揃えを保持していくということであり10年も20年も自分が気持ちを込めて作った版と続けていけるというのは素晴らしい…と感じた。

そのことを坪内さんに伝えると、ちょっと申し訳無さそうに、「たしかにそうなんですけど…そんなに経たないでもエディション切れちゃう(売り切れ)んです…」と教えてくれた。うーん、なんとなんと〜、良い作品が素晴らしいファンに愛されてるということですな〜。坪内さんインタビューありがとうございました。

DUŠAN KÁLLAY(ドゥシャン・カーライ)とは…