ティム・クラーク(大英博物館日本部長)企画
野田哲也の世界
野田哲也特別展開催中(大英博物館 三菱日本ギャラリー/2014年10月5日まで)

「日本人の家族と外国人の家族の間のコントラストがとてもおもしろいと思いました。すごく父親的というか、独裁的な家長制を感じさせるのに対して、より自由で個人単位の西欧型の家族というか。これを表現することで、わたしの狙いは日本と西欧のコントラストの面白さというものをおみせしたかったのです」。こう語った版画家の野田哲也(1940-)が自分の家族と妻のドリット・バルトウールの家族をペアにした作品。この作品はその年の東京国際版 画ビエンナーレで大賞を受賞。(若い野田哲也は左奥に、ドリットは右側に座っています)。


それから50年近くがたった今、野田は500点以上の魅力的な、多色刷り木版と、写真を使ったシルクスクリーンというユニークな組み合わせを手漉き和紙の上に表現した「日記シリーズ」という作品を創作しつづけている。この方法によって個人的なスナップ写真は「生きていることとは何か」という、われわれがたえず問いかけられていることを普遍的な意味をもつ洗練された記念品に生まれ変わる。

日記シリーズというテーマはドリットとの出会いからはじまる。2人の国際結婚と野田のユダヤ教改宗とともに始まり、イザヤとリカが生まれ、我々はその成長を作品を通じて間近にみることができる。
1975年からはじまった「プレゼント、パスト オブジェクト(現在と過去のオブジェー)」は友人からの贈り物(プレゼント)の果物、魚、花や陶器とその包装といったテーマがすべてエレガントな 静物としての作品群になっている。またアメリカや日本、ヨーロッパ、イスラエル、アジアの各地への旅行は記念となる風景画となった。
東京芸大から2007退職した後の「第三段階」では一連の力強いカラー作品が花開いた。その雰囲気は遊び心や見つめる心があり、またその構成は批判的な眼であり、野田は「自分はそれが見る 人の想像力をくすぐるような、抽象的なもの、ミステリアスなもの、ユーモラスな要素が好きなんだ。そして同時に現実的な配置のなかにどれだけ抽象 的な要素を盛り込めるかということを願っている」と語る。
ぼんやりした車窓からみえる駅の風景、風呂桶のなかで飛び跳ねる子供たち、トーストされた病気の親のためのパン…野田の美しい版画は私達自身の 過ぎ行く時を思い起こさせ、そしてわたしたちに感謝の念を呼び覚ますのである。
★野田哲也特別展は大英博物館の三菱日本ギャラリー、94号室で現在開催中(2014年10月5日まで)